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ファースト農園の理念

・根は野菜の胃袋、土は野菜の腸
植物は根酸と呼ばれる酸を出して、土に含まれる栄養素を溶かして吸収しています。また土壌には1g数百万~数千万個もの微生物が生息しているといわれており、いわば根は「胃酸」を出し、その環境は植物にとっての「腸」です。

人間は腸のバランスが崩れるとたやすく体調を崩し、場合によっては病気になってしまいます。植物も例外ではなく、土壌のバランスが崩れたところに種をまいても発芽せず、発芽したところですぐに病気になって枯れてしまいます。

ファースト農園は特定の農法に縛られません。

「特定の農法」とはつまりは人間のエゴであり、植物には関係のないルールです。例えば昨日まで青々としていた葉が黄色くなったとしましょう。どうしますか?

作り手は理論的、経験的に推論します。それはサイエンスです。しかしその科学的事実が示す対処方法が、その農法に反していたらどうでしょうか。やめますか?

ファースト農園は植物だけを見ます。そしてその先にいる、お客様を見ています。だから植物が元気になるのなら、どんな対処法でも実践しようと思います。

・農薬に対する考え方
ファースト農園は農薬を使用します。

「農薬」とは、「農作物(樹木及び農林産物を含む。以下「農作物等」という。)を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する。)の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む。)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」とされ、また農作物等の病害虫を防除するための「天敵」も農薬とみなす。(農薬取締法)

実質的に農作物に使う、殺虫・殺菌目的の全てのものは「農薬」であると読み取ることができると思います。

しばしば、安全性が確認されていない自作の ”農薬” が使用されていることを耳にします。食べ物が原料だから安全といって、農作物に散布していいわけではありません。あくまで判断するのはお客様なので、やはりこれもサイエンスとして考えるべきでしょう。

ファースト農園は農薬として使用した全てのものを防除履歴として野菜に添付します。事前に履歴が見たい方はお気軽にお問い合わせください。

・美味しい野菜をお届けするために
トウモロコシや豆類(枝豆、エンドウ豆など)は品質の低下がとても速く、1時間単位の作業スピードが要求されます。

そこでファースト農園ではトウモロコシと豆類については収穫2時間以内の発送を心掛けています。岡山県からの発送となるので、関東、関西~福岡で翌日、それ以外の地域では翌々日以降となります。品質が多少落ちるかもしれませんが、ご容赦ください。

その他の野菜についても迅速な対応をさせていただきます。

・お客様と同じ野菜を食べます
あくまで噂レベルの話ですが、農家は自分たちの食べ物には消毒をせず、出荷するものにはしっかりと消毒をすると聞いたことがあります。

ファースト農園のお客様は農場主と同じ野菜を食べます。

「キッチンガーデン」という言葉があります。直訳で「台所菜園」です。その日に食べる野菜を、庭から採ってくる。最高のぜいたくだと思いませんか。農場主が美味しいと思った珍しい野菜が、おまけとしてつくかもしれません。

いいものを作ればいつか

ファースト農園は、とにかく美味しくて見た目のきれいな野菜を作ることをゴールに土作りを行っています。

最初はそのゴールがボケていたため、様々な失敗を重ねていました。地域を救う、ひいては日本を救おうとしていたのです。今となっては凄く恥ずかしい話ですが…

変な使命感に燃えていたので、冷静な目線を身につけることが遅れ、所謂「先生」や高い「資材」にハマってしまったのです。

世の中甘い言葉には必ずウラがあり、「これさえ使えばよい」「この人(権威、農法)についていけば間違いない」というのは農業に限らず、ほとんどが嵌め込みです

ファースト農園は特定の農法に縛られません。それは少しの成功と、数多くの失敗から導いた理念です。いいものを作りつづけること。そうすればきっと、気づいてくれる。地味で目立たなく、さらに需要の急増が見込めない農業という分野での話ですから、ことさら安っぽく聞こえますが…

でも、それしかありません。近道はないです。

持続的な農業をするためには、化学肥料や農薬は必要不可欠です。そして反対の言葉かもしれませんが、有機肥料や有機的な管理法もまた必要不可欠です。(実は反対ではなく一体の考えです)

場合によっては有機肥料の方が化学肥料よりも即効性があり、逆に有機肥料こそが病害虫を呼び込むこともあります。

植物は正直です。土もそうです。ツェペリの言う通り、遠回りこそが近道です。

ファースト農園のブログでは、facebookやInstagramでは書けないことを書いていこうと思っています。画像と文章を組み合わせるのはブログ形式の方が見やすいですし。繰り返しますが当園のゴールは美味しく、かつ見た目のよい野菜を作りたいということ。チラ裏ともいいますがね笑

小さい農家がないと全体が衰退する

参入障壁を高くするというのは、既得権益にするということです。
産業構造が硬直化し、大型農家が牛耳る状態になる。

何よりも初心者に優しくない業界は必ず衰退します。

一昔前の格ゲー界隈は酷い有様でした。一部上級者による「初心者狩り」が横行し、新規流入を潰す。そして少なくなった競技人口の中で、今度は上級者が中級者を潰し始めました。そして誰もいなくなったんですよね。

全く一緒とは言いませんが、農業だって似たりです。参入障壁を高くし過ぎると、プレイヤーが減りすぎて業界全体が荒廃します。

今は人口減少社会と参入障壁の構築というのがたまたま合致しているのでいいですが、気が付いたら周りに誰もいなくなったという状態は避けるべきです。

今e-Sportsで格ゲーが盛り上がっているのは、オンライン対戦により初心者が流入しやすい環境になったからです。上級者の特権だった複雑なコマンド入力によるコンボ攻撃が簡素化し、ちょっと練習しただけで「とりあえず戦える状態」になる。これが大事なんです。そして同じランクの人間がオンラインで実戦練習する。

争いは、同じランクの者同士でしか発生しない!といいますが、対戦して面白いのは互いが同じレベルだからです。大農家ばっかりで機械も300万からしかありません、なんて業界に人が来ると思いますか?

ズブの素人でも、兼業だろうが不格好だろうが「とりあえず作れる」人を増やすべきです。競争はそれからです。まずもってプレイヤーを増やさなければ、競争しても面白くないんですよ。

あとはまあ「大農家よ、寛容たれ」と言いたい。下界の人間がチョロチョロしてるだけなんだから、直売所にドカッと出荷するなと。素人流通の素人売場というものがあってもいいじゃないか。もちろん農薬の使用違反は厳しく締め上げます。オンラインゲームでチーターがBANされるのと同じです。

楽しく農業しましょう。

田舎への提案

日本の野菜自給率は79%にも達しており、基本的に野菜販売はレッドオーシャンである、というのが僕の考えです。自給率をカロリーベースで計算すると30%そこそこなのですが、野菜はカロリーが低いので生産量が食料自給率に反映されないのです。

多くの農業生産法人は大型化、産地化により、その売り場のシェア率を上げることを基本的に目指します。例えばスーパーなら20%、仲卸なら30%の品目もしくは生産額を一つの組織が握ることで、買い手から作り手が「切られる」リスクが低くなるはずだからです。

レッドオーシャンでも局地的に勝つ、シェアを握るだけの生産力をつけて経営を安定化させるために規模拡大するのです。一つの組織であれば同じような機械を小さな農家が何台にも分けて持つ必要がなく、肥料も一度に買うことで安くなります。非常に効率的な訳です。

見た目は。

実際の現場を見ると、地域の農家が高齢化したので田畑を若い農業法人に集約して大規模に!とやっている組織でも、結果を出しているとは言えないです。コメをキャベツに転作して加工用に出荷している畑が、年二作作れるはずの畑で年一作しかキャベツを作らず、その間は草ボーボーなんてのはよく見られる光景です。

しかも周囲を大型機械で掘削して水はけをよくしているのでキャベツからコメに戻すことが非常に難しくなっている。当然土地を貸す側も、草がボーボーになって景観が悪くなり、害虫の巣窟となって周囲の田畑に迷惑がかかるのを嫌います。

大きな機械で耕してる癖にウチの畑が草まみれじゃないか!となってモメるのもよくあるシーンです。産みの苦しみといえば聞こえはいいですが、要はキャパオーバーなんですよね。昨今の異常気象で畑に人が入ることができずに、草に負ける。大型機械が重すぎてぬかるみ、入れない。

そんな時には旧来の、小さな家の集合体が強いです。手押しの耕運機で草を生やさないように丁寧に管理する地域の方が景観が維持されることがあります。各家々が、馬力の小さいトラクターで耕す地域の方々の顔が生き生きとしていることがあります。

農業法人に土地を貸す前の田んぼの方が実は美しい風景だったなんて笑えません。農業法人に勤めているスタッフがいつも苦しそう遅くまで灯りがついている。そんな彼らはその地域に、愛着を持ちますかね?

農業法人には経営という使命があります。それを否定はしません。その使命ゆえに、効率の悪い田畑は借りません。そんな場所は非効率だから原野に戻ればよい、という論理を持つ方もいるでしょう。

しかしその論理で競争をした場合、関東平野と北海道、長野などの一部大産地以外の生産は非効率ですよ。

適正規模による適正管理を提案します。非効率な田畑は集約するのではなく、むしろ狭めるのです。アゼ(農地と農地の境界)をなくすのではなく、軽トラが入れるようにスーパーアゼにする。

草を刈って、集めて、乾かした後に焼くというのは重労働です。アゼは細いので足を踏み外す危険もあるし、もちろん車も入れません。そこを農道として使えるようにするだけで、雑草の管理は格段に効率化します。

田畑の間を縦横無尽に軽トラが走れるようになるだけで田舎の景観は一気に美しく変わりますよ。何も集約化だけが道ではないのです。

個配は予冷が命

最近の物流の進歩は驚くことばかりです。LINEを使ってお互いに住所のやり取りをすることなく配達ができたり、伝票入力の効率化やロッカーポスティングなど、ほんの5年前には考えられなかったことが実現しています。ドローン物流はDID(人口密集地)地区や空港周辺の飛行禁止、落下物の禁止等の問題は山積みですがいずれ実現するでしょう。

野菜の配送では鮮度、とりわけ温度が重要です。特にトウモロコシやアスパラガスのような呼吸量の大きい野菜は、できるだけ低温輸送しないといけません。当園ではトウモロコシを気温の低い早朝に収穫して、その日の「夕方」に出荷します。

「野菜の品質保持技術について 千葉大学 大学院園芸学研究科 教授 椎名武夫」

上記の資料の中ほどに、野菜の温度別呼吸量が一覧表になっています。トウモロコシは品温10℃の場合は4.5℃の場合よりも呼吸量が約1.7倍大きくなります。

これはどういうことかというと、呼吸とは光合成の逆反応、つまりお日様をたっぷり浴びて甘く仕上がったコーンが、その貯蔵した甘さを消費して鮮度を維持しているのです。高温で輸送すればするほど、また輸送で時間が経てば経つほど甘さが抜けていくということです。

クール宅急便なんだから大丈夫でしょ、と思いがちがそうではありません。このページにしっかり記載があります。

http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/customer/send/services/cool/

「保冷輸送(温度を保つ)サービスです。お荷物を冷やしたり凍らせたりする冷却機能はありません」

縦長の輸送トラックでは、フリーザー部から出る冷気が回っている間はよく冷えますが、配送の際に扉を開けたら冷気は逃げてしまいます。それを繰り返すたびに温度は上がりますので、10℃以下としているのだと思います。

先述した通りトウモロコシは10℃以下といっても4.5℃と10℃では鮮度の低下スピードが7割近く違うので、発送したトウモロコシが輸送トラックのどの場所に積み込まれるのかで品質が変わってしまいます。ざっくりと言ってしまえばフリーザー部に近いとよく冷え、扉に近いと冷えないからです。

それではせっかく甘く作ったトウモロコシがお客様の手元についたときに甘くないというリスクがありますし、何より自分ではコントロールできない部分なので、はっきり言って博打です。なので輸送の際に温度が上がることを見越して、いかに出荷の時に「キンキンに冷えたトウモロコシを発送するか」が重要になってきます。

予備冷蔵、いわゆる予冷というやつです。大型産地では真空予冷機といって、素早く野菜の芯まで冷やす設備がありますが、当園のような小型農家にはありません。だからトウモロコシは気温の低い早朝に収穫して30分以内に冷蔵庫に立てて放り込み、その日の「夕方」に出荷します。

なぜなら岡山県北エリアの発送は、朝に出そうが夕方に出そうが「トラックは夕方出発」だからです。全てのエリアでそうだとは限りませんが、朝に発送しても受付店で夕方まで冷蔵庫に入ってるので、それなら自分の冷蔵庫で扉を開けずに予冷した方がいいですよね。

何が言いたいのかというと、鮮度を重視するなら輸送や野菜の呼吸を研究しないと鮮度を保持したまま到着するとは限らないということです。鮮度はローソクの火やスマホの充電残量と違って、なくならなければいいという類のものではありません。

葉物はまた別になりますが、ファースト農園では「トウモロコシでは」そうしています。

それでも農薬は排除すべきですか?

https://www.kitasato-u.ac.jp/lisci/international/OmuraSatoshi.html

北里大の大村 智 博士は、ウィリアム・キャンベル(William C. Campbell)博士とともに2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。内容はエバーメクチン(Avermectin)という化学物質を放線菌という土壌微生物から発見して、マラリア治療に役立てた功績です。リンク先の内容を読むと、何千万人もの人の命を救ったことが書かれています。

さてこのエバーメクチンですが、様々な誘導体が開発されていて、その一種にエマメクチン(Emamectin)という物質があります。この物質は節足動物に対する神経毒として、わが国では1997年に登録を受けた農薬です。

商品名「アファーム乳剤」はハスモンヨトウ、オオタバコガなどの大型鱗翅目(りんしもく。いわゆるチョウやガの幼虫です)に速効効果があります。またコナガ、アザミウマ類、ダニ類、ハモグリバエ類など、複数の害虫を同時に防除できる優れた薬剤です。

エバーメクチンから開発された「イベルメクチン」は多くの人の命を救いノーベル賞を受賞しました。「エマメクチン」はダメですか?それでも農薬は排除すべきですか?

https://db.ffcr.or.jp/front/pesticide_detail?id=11900

この検索システムを使うと、残留農薬の基準値を調べることができます。「エマメクチン安息香酸塩」について検索すると、品目にもよりますが、残留農薬基準は0.5ppmまでとなっています。これがどの程度かというと、水1Lに対して0.5mg、およそ0.00005%となります。

1000Lに5mlくらいです。家庭用のお風呂は250Lくらいですから、4杯分くらい。そこに小さじ1杯です。かなり厳しい基準です。むしろそのくらいの微量ですら検出できてしまう機材がすごいですね。

逆に言えば、生産者がズルをしても絶対に分かる時代です。そしてそういった嘘がSNSで拡散してしまったら、廃業の危機です。明らかに嘘をつくリスクが高すぎるということが分かると思います。

もちろんファースト農園では適切に農薬を使用していますし、防除暦も添付しています。将来的に最低でも年に1回は残留農薬試験を実施したいと考えています。

同時に、太陽熱養生処理に代表される「病害虫を農薬を使わずとも抑えられる技術」も検証しています。

微生物の発酵リレー

発酵とは本当に興味深い仕組みで、様々な微生物がリレー形式で連携しています。
例えば清酒酵母とコウジカビです。蒸米にコウジカビをふりかけ、米のデンプンを糖化させます。糖化したデンプンは酵母にとって利用しやすい形となっているのですが、この際コウジカビはYeastcidin(イーストサイジン)という抗菌物質を出して他の菌が寄り付かないようにブロックします。しかし清酒酵母はこの抗菌物質に抵抗性を持っていて、この特性によって酵母は腐敗を抑えながらアルコールを作ることができるのだそうです。

人間の腸内の例としては、酪酸菌と乳酸菌です。酪酸菌は糖から酪酸や酢酸という酸を作って腸内の雑菌を焼いてしまいますが、乳酸という同じような酸を作る乳酸菌はこの中でも生きていけます。このリレーによって腸内は弱酸性に保たれ、かつ乳酸菌は消化された食べ物に含まれるミネラルをキレートして、カラダに吸収しやすい形にしてくれます。

植物にとってはこの酪酸菌と乳酸菌の連携は特に重要です。土壌に含まれる病原菌は、傷んだ根や葉っぱから侵入してきます。今年の梅雨入り前は特に乾燥しましたよね。細胞もカラカラです。そこに一気に雨が降りましたね。つまり細胞に突然大量の水が入ってきました。そうなると根や葉っぱには亀裂が生じやすくなり、さらに激しい雨が泥をたたくことで病原菌を含んだ泥水が舞い上がります。

こうして梅雨時期に病気が発生します。これを抑えたい。土壌は植物の腸と考えると、先の酪酸菌と乳酸菌のリレーによる雑菌を抑える仕組みを使わない手はありません。

ここまでで、そんなこと本当に起きるのか?非現実的ではないか?と思った方がいると思いますが、実は簡単に実験できます。

・ビオスリーHi錠
・アサヒ EBIOS錠
・白砂糖
・水

この4つを用意し、大きなペットボトルに水4Lを入れ、砂糖を3%程度となるように溶きます。そこにビオスリー錠とエビオス錠を1錠ずつ入れて、直射日光に当たらない場所にフタを閉めて放置してみてください。

砂糖水は透明ですが、徐々に白濁してきます。その時の匂いを嗅いでみてください。とても臭いです。それが酪酸の匂いで、「汗が蒸れた匂い」「道路に落ちた銀杏臭」「一日歩いた足の裏の匂い」などとにかく不快臭として分類される物質です。

そこで捨てずに、さらに置いておくとどうなるか。なんとあれだけ不快だった匂いが消え、酸っぱい匂いがしてきます。乳酸と酢酸が作られている。しかもフタを閉めているので、空気を使わずに(嫌気的に)連携プレーが行われています。

土壌というのは約10cmより深い場所はほぼ嫌気性のため、この二つの菌のリレーを使うと、雑菌を抑えつつキレートミネラルまで効かせることができそうです。

ファースト農園ではこの他にも、色んな発酵を用いて土づくりに取り組んでいます。

太陽熱養生処理と日和見菌

日和見菌とは悪玉菌ではなく善玉菌でもない菌、日和見を決め込んでいる菌のことです。健康な人間の腸では日和見菌善玉菌:悪玉菌=7:2:1の比で多くの菌が棲みついているそうです。

土壌においても同じことが言えて(土壌は植物の腸)、大部分が日和見菌です。日和見とは要するに「強いものの味方」で、土壌の調子がいいと善玉菌の味方をしてより良い状態にしてくれます。

しかし悪玉菌優先の土ではより悪くなる方に味方をしてしまうので、病気が発生したら速やかに対処しないといけません。

さて、前回に太陽熱養生処理は前作までの根圏を改善する技術であるという考えを書きました。耕した範囲、もしくは深根性の作物で掘った深さまでが太陽熱養生処理の「効果圏」といえます。

土が固く締まってしまうと土壌は悪玉菌優先になりがちで、そこで太陽熱養生処理をしてしまうと日和見菌が悪玉菌の側についてしまい、効果がなくなってしまいます。

土が締まっている畑は、多くの場合畝が低いです。

高畝にするのは労力がいるのでつい低くしてしまう。そうすると雨水が上がってきて、水がそれまで空気のあった場所を奪ってしまいます。そして水が引くことで土が締まる。締まった場所に善玉菌は棲みつかないので、太陽熱養生処理が逆に悪玉菌とその味方をした日和見菌の巣になり、むしろ病気が増えてしまう。

これは水のやりすぎでも同じことが言えます。僕は「土壌水分60%」は多すぎと考えています。

現場においては、改善すべき土壌は改善が必要だからするので、たいていは水はけが悪い畑であることが多いです。よって畝立ての後の水やりは必要ない。むしろ40%くらいの少し乾いた状態で行うと地下水が上がってくるので、その水で十分足ります。

砂質土壌ならば太陽熱養生処理によって改善するより、まずはもみ殻などの緩衝材を挟んで土が締まりにくい環境を整えてからするべきです。土壌は物理性(土の柔らかさ)-化学性(土に含まれる物質)-生物性(土に棲みついた生き物)の「順番」で重要です。

物:化:生=7:2:1

この位の重要度だと思います。僕は日和見菌-善玉悪玉の比率と同じ程度をイメージしています。硬い土なら100点の内70点が失われた状態なので、微生物どころの話ではないです。まずは耕し、ふかふかの状態を作ってから太陽熱養生処理を行った方がいいのではないでしょうか。

これは当農園で行った太陽熱養生処理です。左と右の畝を4/26から5/30まで34日間行いました。太陽熱養生処理は確かに雑草を抑え、粗大有機物をある程度まで分解してくれます。真ん中が行っていない場所ですが、適時除草剤を散布しても雑草が抑えられていないことが分かります。

そしてこれはとても大切なことですが、「低温期の太陽熱養生処理は畝の脇などから草が生える」ということです。水が多い場所なら雑草は畝脇に限らず天面でも関係なく生えてきます。下の画像は透明マルチをはいだ直後のものです。赤いマルの場所は雑草の芽が出ています。

透明マルチをはいだ直後の雑草が軟弱なタイミングで、除草剤を全面に散布しています。除草剤は土にかかると速やかに無害な物質に分解されるので、2日も置けば種まきが可能です。

前回の記事に載せたように、この畑は太陽熱養生処理によって水はけが劇的に改善しているので、水がたまりません。なので難易度の高い9-10月のニンジンに挑戦しています。

太陽熱養生処理とその実際

この太陽熱養生により、土壌環境の劇的な改善が期待できるようなのですが、僕は違うと思います。

太陽熱養生処理に耕盤層を抜く効果はない」です。
太陽熱養生処理は確かに土を柔らかくできるのですが、耕盤をぶち抜くほどではない。前作の野菜が何かによって大きく効果が変わります。

例えば根の浅い小松菜やチンゲンサイのようなものを作って太陽熱養生処理をしたとしても「土に棒が深々と刺さる」ということは、現実においてはほとんどありません。

逆にエンバクのような深根性の緑肥を作ると、まずその根によって硬い土が割られます。その後に太陽熱養生処理を施すと、根圏の土がふかふかに改善されるため棒が刺さりやすくなると思われます。

要するに「太陽熱養生処理とは、前作までの根圏を改善する技術である」と言えます。

太陽熱養生処理がうまくいかない(葉物野菜ばかり作るため耕土が浅い)畑は
・養生処理の際にクロストリジウム属のような酪酸菌を添加して乳酸菌などの有用菌が増えやすい環境を整えること
・エンバクなどの深根性の緑肥やプラソイラー等の大型機械を使って、まず物理的に耕盤を割ること

この2点が必要になると思います。1点目は耕土層が浅くても構わないから、とにかく病気を減らし害虫の卵や幼虫を退治したい、という場合に必要になります。クロストリジウムが産生する酪酸などの有機酸はフザリウムを抑える効果があり、乳酸菌などの嫌気性有用菌の増加を助けます。

耕土が浅いと土はすぐに嫌気状態になり、固く締まり始めます。
こうなりはじめた土は太陽熱養生処理の効果が切れた状態で、虫が来ます。最初から嫌気状態を好む菌を優先させておく方が賢い戦略ではないでしょうか。

そもそも葉物野菜は30日程度で収穫になるので割り切ってしまうか、2点目の深根性の作物の力を借りて土壌改善を図り、太陽熱養生処理によって改善効果のブーストをかけるイメージです。

太陽熱養生処理の根幹にあるのは、
・分解の進んだ有機物が二酸化炭素まで一気に酸化分解し、そのガスによって土の容積が増える(ふかふかになる)
・酸素がなくなり還元状態になることで、カビや雑草の種が還元消毒される
・堆肥などの未熟有機物の酸化が酸素不足によって止まり、オリゴ体もしくは水溶性ポリマー体程度の分子量で土にとどまること

の3点です。そのあとに起こる現象として
・嫌気性の乳酸菌が優先する土になる。納豆菌などのバチルス属は芽胞を形成して生き残る。芽胞形成能がない好気性の微生物は激減する。
・透明マルチをはいだ後には芽胞となっていたバチルス属が動き出し、今までの病原菌がいた場所を使って増えだす(空いた椅子に座る)

となります。ガスによって耕盤を抜くというのは言い過ぎです。これは多くの方が経験したことだと思います。

また太陽熱養生処理をしたらネキリムシが増えたというのもよく聞きます。おおよそ20cmより深い場所が太陽光によって50℃以上まで温められるという現象は考えにくいので、単にネキリムシは下に逃げます。

そして透明マルチの被覆がはがされるとネキリムシは冷えた地表に移動するので、太陽熱養生処理をした場所にすぐ種をまいたりするとやられてしまいます。厄介なことにその地表は冷えたとはいえ太陽熱養生処理でホカホカになっているので、ネキリムシはその場所を離れてくれません。

これが太陽熱養生処理で逆に害虫被害が増えた、という現象の真相です。

雨によって温度を下げてネキリムシがほかの場所に行くのを待つか、太陽熱養生処理をした後にアルバリン、ダイアジノン等の地虫に効く農薬を併用すべきです。

太陽熱養生処理によって深々と棒が刺さる農家の共通点として
・ベテラン農家(元から技術がある)
・改良工事等によってイシガラが敷き詰められていない地域
ということが結構あり、もともと畑としてのポテンシャルが高い場所です。

「新規就農者が条件の悪い圃場を借りて太陽熱養生処理を使い、一気に土壌を改善して1年目から儲けを出す」

こういった一部に限った話を信奉するのはやめましょう
ちなみに当農園の土です。深々と棒が刺さるようになりました。リンクの資料通りにやった訳ではありません。

自分で勉強し、畑にあったやり方で頑張りましょう。

天候に合わせること

天候をコントロールすることはできません。
雨に合わせて種をまき、晴れに合わせて追肥や消毒をする。

シンプルですが、この考えは「余裕のある精神」がないと実現できません。急いでいるとついつい巻いて作業をしますが、実はこれがよくない。

10苗のキュウリを急いで10苗植えてはダメです。不思議なことに天気予報が外れ、カンカン照りの乾いた日になることがあります。すると渇きに弱いキュウリ10苗の内、3苗は萎れてダメになるかもしれません。

全て一度に植えると30%がロスします。しかしここで余裕をもって7苗だけ植えるとどうでしょうか?枯れたのは2苗で済んだかもしれません。

全部で10苗のうち、8苗が育つ。ロス率が10%改善する訳です。天候は人間の思うようにはいかないです。それに腹を立ててみても文字通り「天に唾する」ですよね。

また、新庄村は縦に長い岡山県のほぼ北端にあります。寒いです。そして市販されている苗の99%は南の温かい場所で育てられています。

市販の苗を買ってきて、明日はバタバタするからといって急いで植えたとしましょう。間違いなく苗が「風邪をひく」現象が起きます。調子が崩れてしまうんです。

南から新庄に来村した方が宿泊すると、みなさん口々に「寒いので昨晩はもう一枚着て寝ました」と言います。苗だって一緒です。温かい場所から急に夜温の低い場所にお引越ししたということは、夏からいきなり秋になったみたいなものです。

しかも人間と違って「もう一枚着て寝る」なんてできないので、風邪をひいてしまうわけです。そうなるとナスやトマトのような温度が必要な野菜は一発で収量が落ちます。

精神に余裕をもって、お引越ししてきた苗を一週間ほどハウスに置いてお世話します。面倒なようでもこうするだけで見違える苗になりますよ。

畑には今しかない

後悔の多い人生を送ってきました。転職を繰り返して様々な人に迷惑をかけ、今は測量の仕事についています。

過去は変えられません。消すこともできません。隠そうとしても人の口には戸が立てられません。どうあがいても、今を生きるしかない。

今は過去の連続としての結果です。つまり畑は今を写す鏡です。

・雑草が伸び放題では、草が発散する水蒸気量が増え、雨の次の日に畑に立った時に不快度が増します。不快ですから、畑に行かなくなります。もっと草が伸びます。
・発酵でなく腐れた有機物を土に入れると、病気や害虫の温床になります。
・人間関係がこじれた結果として畑に出る時間を削ります。

うまくいかない「今」はすべて「過去」からやってくるということです。第五部です。今の僕は野菜のお世話をする、出来ることそのものが幸せです。測量の仕事が楽しく、農業にも活かされている実感がそうさせてくれています。

過去の僕は植物に向き合う仕事をしていながら、その先のゼニカネを見ていた。お客様に向き合っていなかった。つまり「今」でなく「未来」を見ていた訳です。成功するはずがない。

今、畑という現場で起こっている現象(雑草、健康状態)を観察しなければ、それは未来に「やっちまった過去」として立ち現れます。今までと同じことが繰り返されるだけです。

今が過去の連続としての結果なら、未来とは今の連続です。 今から逃げたら野菜はできません。今、虫がついている。今、病気が出ている。それが現実です。

そして今、パリパリの美味しい野菜が出来るのは、過去のお世話が正しかった証拠、人間として何一つ誇れるものがなかったとしても、そこは正しかった、だから今、美味しいもぎたて野菜が食べられる。

後悔するより草を刈れ、まずはそこからです。