この太陽熱養生により、土壌環境の劇的な改善が期待できるようなのですが、僕は違うと思います。
「太陽熱養生処理に耕盤層を抜く効果はない」です。
太陽熱養生処理は確かに土を柔らかくできるのですが、耕盤をぶち抜くほどではない。前作の野菜が何かによって大きく効果が変わります。
例えば根の浅い小松菜やチンゲンサイのようなものを作って太陽熱養生処理をしたとしても「土に棒が深々と刺さる」ということは、現実においてはほとんどありません。
逆にエンバクのような深根性の緑肥を作ると、まずその根によって硬い土が割られます。その後に太陽熱養生処理を施すと、根圏の土がふかふかに改善されるため棒が刺さりやすくなると思われます。
要するに「太陽熱養生処理とは、前作までの根圏を改善する技術である」と言えます。
太陽熱養生処理がうまくいかない(葉物野菜ばかり作るため耕土が浅い)畑は
・養生処理の際にクロストリジウム属のような酪酸菌を添加して乳酸菌などの有用菌が増えやすい環境を整えること
・エンバクなどの深根性の緑肥やプラソイラー等の大型機械を使って、まず物理的に耕盤を割ること
この2点が必要になると思います。1点目は耕土層が浅くても構わないから、とにかく病気を減らし害虫の卵や幼虫を退治したい、という場合に必要になります。クロストリジウムが産生する酪酸などの有機酸はフザリウムを抑える効果があり、乳酸菌などの嫌気性有用菌の増加を助けます。
耕土が浅いと土はすぐに嫌気状態になり、固く締まり始めます。
こうなりはじめた土は太陽熱養生処理の効果が切れた状態で、虫が来ます。最初から嫌気状態を好む菌を優先させておく方が賢い戦略ではないでしょうか。
そもそも葉物野菜は30日程度で収穫になるので割り切ってしまうか、2点目の深根性の作物の力を借りて土壌改善を図り、太陽熱養生処理によって改善効果のブーストをかけるイメージです。
太陽熱養生処理の根幹にあるのは、
・分解の進んだ有機物が二酸化炭素まで一気に酸化分解し、そのガスによって土の容積が増える(ふかふかになる)
・酸素がなくなり還元状態になることで、カビや雑草の種が還元消毒される
・堆肥などの未熟有機物の酸化が酸素不足によって止まり、オリゴ体もしくは水溶性ポリマー体程度の分子量で土にとどまること
の3点です。そのあとに起こる現象として
・嫌気性の乳酸菌が優先する土になる。納豆菌などのバチルス属は芽胞を形成して生き残る。芽胞形成能がない好気性の微生物は激減する。
・透明マルチをはいだ後には芽胞となっていたバチルス属が動き出し、今までの病原菌がいた場所を使って増えだす(空いた椅子に座る)
となります。ガスによって耕盤を抜くというのは言い過ぎです。これは多くの方が経験したことだと思います。
また太陽熱養生処理をしたらネキリムシが増えたというのもよく聞きます。おおよそ20cmより深い場所が太陽光によって50℃以上まで温められるという現象は考えにくいので、単にネキリムシは下に逃げます。
そして透明マルチの被覆がはがされるとネキリムシは冷えた地表に移動するので、太陽熱養生処理をした場所にすぐ種をまいたりするとやられてしまいます。厄介なことにその地表は冷えたとはいえ太陽熱養生処理でホカホカになっているので、ネキリムシはその場所を離れてくれません。
これが太陽熱養生処理で逆に害虫被害が増えた、という現象の真相です。
雨によって温度を下げてネキリムシがほかの場所に行くのを待つか、太陽熱養生処理をした後にアルバリン、ダイアジノン等の地虫に効く農薬を併用すべきです。
太陽熱養生処理によって深々と棒が刺さる農家の共通点として
・ベテラン農家(元から技術がある)
・改良工事等によってイシガラが敷き詰められていない地域
ということが結構あり、もともと畑としてのポテンシャルが高い場所です。
「新規就農者が条件の悪い圃場を借りて太陽熱養生処理を使い、一気に土壌を改善して1年目から儲けを出す」
こういった一部に限った話を信奉するのはやめましょう。
ちなみに当農園の土です。深々と棒が刺さるようになりました。リンクの資料通りにやった訳ではありません。

自分で勉強し、畑にあったやり方で頑張りましょう。
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